「新NISAはやめとけ」。そう書かれた投稿を見て、口座開設の画面を閉じた経験はないだろうか。俺も同じところで一度止まった。政府の陰謀だとか日銀の資金調達だとか、そういう話を真夜中にスクロールしていた側の人間だ。
厄介なのは、その不安に正面から答えている記事がほとんどないことだ。デメリットを7個並べて「でも長期なら大丈夫」で終わる。肝心の「なぜ国がここまで投資を勧めてくるのか」には誰も触れない。
俺は夫婦の奨学金約600万円を抱えたまま、オルカンを積み始めた。「借金があるのに投資なんて正気か」と言われる立場で、返済は一度も止めず5年で完済している。積立のほうは2020年から6年、ほったらかしたままだ。
この記事では、やめとけと言われる理由を4つ全部並べる。そのうえで国が新NISAを勧める理由を年金の数字から説明し、最後に月1,000円という現実的な一手まで書く。読み終わるころには、自分が「今すぐ始めていい人」なのか「先に固定費を削るべき人」なのかを自分で判断できる。
先に結論を言う。「やめとけ」と言われる穴は、たしかに実在する。そこは否定しない。ただしそれは制度の穴ではなく、使い方の穴だ。
新NISAのせいで損はしない

「やめとけ」と言う人の多くは、何をやめろと言っているのかが曖昧だ。中身の商品の話なのか、制度そのものの話なのか。ここが混ざったままだと、この先の判断も全部ずれる。先に用語を整理しておく。
新NISAは制度であって商品ではない
ここで、そもそもの主語を直しておきたい。新NISAは「株で儲かったときの税金を免除してくれる制度」だ。通常、投資で得た利益には20.315%の税金がかかる。100万円儲けても手元に残るのは約80万円で、この約20万円をゼロにしてくれる箱が新NISAだ。
だから「NISAは下がる」「NISAで損した」という言い方は、文章として成立していない。正しい言い方は「新NISAという制度を通して買った商品が、上がった(下がった)」。NISAそのものが増えたり減ったりすることはなく、動いているのは中身だ。
悪いのはカゴではなく中身
スーパーで考えるとわかりやすい。買い物に行くと、いつものカゴの横に「NISA」と書かれた特別なカゴが置いてある。店員が言う。「そのカゴに入れた分は消費税がかかりません」。ラッキーだと思ってNISAのカゴを使い、肉や魚(=個別株)や、惣菜や弁当(=投資信託)を入れる。税金はかからない。そういう仕組みになっている。
では、買った肉が腐っていたとする。「NISAのカゴに入れたから肉が腐った」と怒る人がいたら、どう見えるだろうか。普通は「お前が選んだ肉の鮮度が悪かったんだろう」となるはずだ。「新NISAで損をした」という声の多くは、これと同じ構造だ。カゴのせいにしているが、問題は中身の選び方にある。
新NISAはやめとけと言われる理由

新NISAには、制度として不利な点が確かにある。ここを認めないまま「長期なら大丈夫」で片付ける記事は信用しなくていい。感情論を抜きにして、弱点を並べる。これが「やめとけ」の実体だ。
新NISAの主なデメリット
- 損益通算・繰越控除ができない
- 短期売買に向かない
- 元本割れの保証がない
- 枠を埋めにいくと現金が尽きる
新NISAは損しても救済がない
課税口座なら、利益と損失を相殺して税金を減らせる(損益通算)。相殺しきれない損失は翌年以降3年間まで持ち越せる(繰越控除)。新NISAはどちらも使えない。非課税口座なので、そもそも税金の計算に参加していない。儲けたときは得をするが、損したときの逃げ道は一切ない。
細かいところでは、米国株や米国ETFの配当も現地で10%引かれる。「完全に非課税」ではなく、ゼロになるのは日本の税金のほうだ。
新NISAは短期売買に向かない
新NISAは売却すると翌年に枠が復活する。ここを見て「じゃあ回転させよう」と考えるのは危険だ。復活するのは翌年以降で、年内に売り買いを繰り返すと成長投資枠の年240万円をあっという間に使い切る。しかも損益通算もできない。
ただし正直に書くと、この3つが実害になるのは特定口座で含み損を抱えている人、米国の高配当株を狙う人、短期で売買したい人だ。オルカンを毎月積むだけなら、ほとんど関係ない。
新NISAでも元本割れは起きる
新NISAは元本保証ではない。当たり前の話だが、ここが曖昧なまま始める人が多い。実際に2024年8月5日には、日経平均株価が過去最大の下落幅となる4,451円安を記録している。始めて半年の人が、いきなりこれを食らった。
投資である以上、預けた金が減る可能性は常にある。減らないお金の置き場所が欲しいなら、それは預金の仕事だ。新NISAはその代わりにはならない。
新NISAの枠を埋めると現金が尽きる
新NISAには年間360万円、生涯1,800万円という共通の枠がある。この「わかりやすい目標」が、実は一番厄介だ。SNSを開けば「今年の枠はもう埋めた」「使い切らないと損」という投稿が流れてくる。
焦って生活費まで突っ込むと、いざ子どもの入院や車の故障が来たときに、暴落中の商品を泣きながら売ることになる。これがいわゆる「NISA貧乏」だ。枠は義務ではない。使い切らなくても、誰にも怒られない。
新NISAは政府の罠なのか

ここからが、多くの記事が避けている部分だ。デメリットの話をしても、「そもそもなぜ国がここまで投資を勧めてくるのか」という気持ち悪さは消えない。先に答えを書くと、これは陰謀ではなく年金の計算違いだ。厚生労働省が出している数字で説明できる。
罠だとしても日本からは逃げられない
「国が勧めてくるものにロクなものはない」という感覚は、半分正しい。ただ、仮にこれが政府の仕掛けた罠だったとして、俺たちに逃げ場があるだろうか。日本で働き、日本円で給料をもらい、日本で子どもを育てている以上、俺たちは日本政府と一蓮托生だ。
国の財政が沈めば、参加しなかった人も一緒に沈む。どうせ手のひらの上で踊る運命なら、誰よりも上手く、合理的に踊ったほうがいい。参加を拒否することはリスクを避ける行為ではなく、リスクを別の場所に移し替えているにすぎない。
長生きが制度の前提を壊した
そのうえで、罠の中身を見ていく。年金制度が設計されたころ、人はここまで長生きしない前提だった。厚生労働省のデータを見ると、その変化がはっきり出ている。
| 時点 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1986年(基礎年金の施行時) | 15.52年 | 18.94年 |
| 2020年 | 20.05年 | 24.91年 |
| 2065年(推計) | 22.60年 | 27.94年 |
| 1986年→2020年の伸び | +4.53年 | +5.97年 |
出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第8 平均余命の伸長と年金」
基礎年金が始まった1986年、65歳男性の余命は15.52年だった。それが2020年には20.05年で、34年のあいだに約4.5年伸びている。女性にいたっては約6年だ。医療が進歩して、寿命が制度の設計を追い越した。めでたい話ではあるが、財布の側から見れば、同じ財源で支える期間が伸びたということだ。
年金だけでは足りないと国は言えない
では、どれくらい薄くなるのか。年金の水準は「所得代替率」で示される。現役世代の手取り収入に対して年金がどれくらいの割合かを表したもので、2024年度は61.2%だった。現役男子の平均手取り37.0万円に対して、モデル世帯の年金が22.6万円という計算になる。
出典:厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」2024年7月
2024年の財政検証では、経済が過去30年並みに推移するケースで、2057年度に50.4%まで下がる見通しが示された。約30年かけて2割ほど下がる。
ここは誤解されやすいので正確に書く。所得代替率が2割下がることは、年金額そのものが2割減ることを意味しない。マクロ経済スライドには名目下限措置があるため、スライド調整によって年金額が前年度より名目で減ることはない。下がるのは「現役世代の給料の伸びに対して、年金の伸びが追いつかない」という相対的な水準だ。年金は破綻しない。ただし物価や給料が上がっていく中で、年金だけが少しずつ置いていかれる。
自分で用意しろが新NISAの正体
国は「年金だけでは足りません」とは言えない。制度への信頼が揺らぐからだ。その代わりに用意されたのが、非課税の枠を大幅に広げた新NISAだと俺は見ている。足りない分は自分で用意してくれ、という遠回しな意思表示だ。
これを「陰謀」と呼ぶこともできる。ただ、陰謀だと言って口座を開かなかったところで、所得代替率が上がるわけではない。数字は数字として、そこにある。
新NISAをやめとくべき人

ここまで読んでもらったうえで、はっきり書く。本当に「やめとけ」と言うべき人は3種類いる。以下に当てはまるなら、今は投資より先にやることがある。
1つでも当てはまるなら、今は待っていい
- 手元の現金が生活費の3ヶ月分もない
- 3〜5年以内に使う予定のお金を入れようとしている
- 1年以内に結果を出したいと思っている
生活防衛資金がない人
手元の現金が生活費の3ヶ月分もないなら、投資は後回しでいい。子育て世帯は突発的な出費が読めないからだ。子どもの発熱で仕事を休む、車が壊れる、家電が寿命を迎える。そのときに現金がなければ、値下がりしている最中の商品を取り崩すしかない。これが一番もったいない負け方だ。
先にやるべきは固定費の見直しだ。投資で年5%を狙うより、月5,000円の固定費を削るほうが確実で早い。俺は返済中に固定費を月6.2万円まで削って、そこを返済と積立の原資にした。効き方が大きいのは車と保険と通信費の3つ。
奨学金や車のローンを抱えている人には、そもそも借金があるのに投資していいのかという問題もある。俺がどう折り合いをつけたかも含めて、投資より先に手をつける場所を並べておく。
3〜5年で使う金を入れる人
使う時期が決まっているお金は、投資に向かない。住宅の頭金、車の買い替え、数年後の入学費用。これらは「必要なタイミングでプラスになっている保証がない」という一点で失格になる。逆に、大学費用のように15年以上先の支出なら話は変わってくる。時間があるほど、値動きの振れ幅は均されていくからだ。
教育費は金額が大きいぶん、先に総額と貯め方を決めておいたほうがいい。学資保険で貯めるべきかどうかは、俺が主要4社の見積もりを取って比較した。児童手当と掛け捨て保険とNISAで代わりに貯める手順まで書いてある。
あわせて読みたい
短期で増やしたい人
1年で結果が欲しいなら、新NISAは道具として合っていない。非課税というメリットは、時間をかけて複利が効くほど大きくなる設計だからだ。数ヶ月で判断するつもりなら、税制上の不利だけを背負うことになる。
借金600万を返しながらNISAで積んだ6年

ここからは俺自身の話をする。奨学金600万円が残っている状態で何を買って、暴落のときに何をしたか。6年分の記録を数字で出す。
買ったのはオルカン1本
俺が新NISAでやったことは、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称オルカンを毎月積み立てる設定を1回入れて終わり。銘柄は選んでいないし、タイミングも計っていない。毎月3万円を、まだつみたてNISAだった2020年5月から積んでいる。制度が新NISAに変わってからも、設定はそのままだ。
しかもこれを、夫婦の奨学金約600万円が残っている状態で始めた。「借金があるのに投資なんて正気か」と言われる立場だ。だからこそ金額は絞ったし、生活が傾かない範囲でしか入れなかった。返済を止めたことは一度もない。
完済したのは俺が2023年12月、妻が2024年1月。積立を始めてから3年7ヶ月は、返済と積立がずっと並走していた。そして妻が返し終えた2024年1月に、新NISAが始まっている。借金ゼロの状態で新制度の初日を迎えられたのは、返しながら積んでいたからだ。
オルカンは弁当でいえば幕の内だ。世界中の主要な企業という具材が最初から詰め合わされていて、時代の旬に合わせて中身も自動で入れ替わる。どこの牛か猪かわからない肉を自分で目利きするより、勝率が高いと判断した。
暴落は来た。売らなかった
積み始めて4年たった2024年8月5日、日経平均は過去最大の下げ幅を記録した。このとき、NISA以外の資産も合わせて1ヶ月で100万円ほど減っている。
ただ、正直に言うとほとんど動揺しなかった。「どうせオルカンなら上がるだろ」くらいにしか思っていない。売る理由が思い浮かばなかったので、何もしなかった。
耐えられた理由をあとから考えると、2つある。4年積んだ分の含み益が乗っていたことと、毎月3万円という金額が生活を圧迫していなかったことだ。額が小さいほど、暴落は他人事に近づく。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 買ったもの | オルカン1本 |
| 毎月の積立額 | 3万円 |
| 積立期間 | 2020年5月から6年(つみたてNISA→新NISA) |
| 評価額 | 元本の約1.5倍 |
※2026年9月時点。相場によって日々変動する。将来の成果を保証するものではありません。
新NISAは設定して放置した
6年間で俺がやった操作は、最初の積立設定と、たまに残高を眺めること。この2つしかない。分析もしていないし、ニュースも追っていない。シフト勤務で夜勤明けに寝て、起きたら子どもの相手をする生活で、相場を追いかける時間はないからだ。時間がないからこそ、判断の回数がゼロで済む方法を選んだ。
失敗しない新NISAの始め方

デメリットも、やめとくべき人の条件も出そろった。そのうえで、それでも試してみたい人が取れる、いちばん安全な手順を書く。
まず月1,000円で1年試す
いきなり満額を目指す必要はない。月1,000円でいい。この金額を勧める理由は3つある。
月1,000円から始める3つの理由
- 家計が壊れない/コンビニに寄る回数を数回減らせば出てくる
- 暴落しても耐えられる/半値になっても損失は数百円
- 疑ったままで始められる/信じてから始める必要がない
特に2つ目が重要だ。数百円で「自分が暴落に耐えられる人間かどうか」がわかる。シミュレーションでは絶対に手に入らない情報だ。むしろ疑っている人ほど、小さく試して自分の目で確かめたほうがいい。
買うのはオルカン1本でいい
商品選びで迷う時間がいちばんもったいない。個別株は肉や魚で、目利きができれば安く大量に手に入るが、鮮度を自分で判断する必要がある。投資信託は惣菜や弁当で、肉も魚も野菜も最初から詰め合わされている。味付けは選べないが、買うだけで栄養バランスが揃う。
子育て中で時間がないなら、答えは弁当側だ。中でも全世界株式のインデックスファンドは、信託報酬(保有中ずっとかかる手数料)が年0.1%を下回る水準まで下がっている。ここを高いものにすると、長期になるほど効いてくる。もちろんオルカンも絶対ではなく、世界全体が沈めばマイナスになるが、広く分散されたほうが生き残る確率は高いと判断している。
「NISAの次はiDeCoか」と聞かれることもある。ただiDeCoは60歳まで引き出せないうえ、受け取り方によっては退職金と非課税枠を取り合うことになる。子育て中に急いで手をつける優先度は高くない。
あわせて読みたい
口座はネット証券で開く
口座は銀行や対面の証券会社ではなく、ネット証券を選ぶ。理由は手数料と、営業されないことだ。窓口で相談すると安心感はあるが、相手にも売りたい商品がある。担当者は数年で異動するので、長期の伴走も期待しにくい。
俺は楽天証券を使っている。楽天ポイントが積立に使えることと、アプリの画面がわかりやすいことが決め手だった。NISA口座は1人1つ、1つの金融機関でしか持てないので、ここだけは最初に決める必要がある。手続きはスマホで本人確認書類を撮って送るだけなので、夜勤明けの布団の中でも終わる。
新NISAは敵じゃない

最後に、この記事の答えを書く。やめとけという声には根拠がある。ただし金額を小さくした瞬間に、その根拠のほとんどが消える。罠かどうかを決めるのは、制度ではなく使い方だ。
小さく始めて、そのまま続ける
「新NISAはやめとけ」という声には根拠がある。損益通算はできないし、元本は割れるし、枠を埋めにいけば家計が傾く。この記事で並べたとおりだ。ただ、その全部が「大きな金額を、覚悟もなく突っ込んだ場合」の話でもある。金額を小さくした瞬間に、ほとんどの穴は無害になる。
そして年金の数字は、俺たちが疑っていようがいまいが動いていく。65歳からの人生は伸びて、現役の給料に対する年金の水準は下がる見通しだ。信じる必要はないし、国を好きになる必要もない。月1,000円だけ動かして、1年後に自分の目で確かめればいい。それで合わないと思ったら、やめればいい。合うと思えたら、あとはそのまま続ける。俺が6年やってきたのも、その繰り返しだ。
新NISAは敵じゃない。かといって味方でもない。税金を止めてくれるカゴで、何を入れるかは自分が決める。腐った肉を入れたなら、それはカゴのせいではない。
投資より先に借金を消すべき状況の人もいる。俺が奨学金600万円を5年で完済するまでにやったことは、全部そのまま書いてある。順番で迷っているなら、こっちが先だ。
あわせて読みたい
出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」(第8 平均余命の伸長と年金)/厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」(2024年7月)/金融庁「NISAを知る」(2026年9月確認)



コメント